【結果】SOC 2023 No.2. 車の音、どう感じる?

 
 Sound One Challenge2023でご回答いただいた「車の音」のAudio Testの結果報告です!
 ダイジェスト版はこちらです。

●背景


Sound Oneの親会社小野測器が新たにデータ販売のビジネスをはじめた。
ベンチマーク車として中国のバッテリEVのBYD ATTO3を購入。
走行性能や電費などの計測の他、車室内のサイン音や操作音、また、テストコースでの走行音などを収録した。
ATTO3のウインカー音は、標準とブランドの2択が用意されていた。
標準は、従来のカチッ、カチッといったリレー音で、ブランドは、基本周波数の異なる和音2音の繰り返し。
左右で、2音の順が異なり、左は、高⇒低 右は、低⇒高(周波数)となっている。
従来のクルマのウインカー音は、その殆どが、リレー音を模して、カチッ、カチッといった音だが、
それでも多少のバリエーションはある。
ATTO3のブランドウインカー音は、例外的な音だが、未来のクルマのウインカー音は、バリエーションが増えるのだろうか? 
各車のウインカー音を集めて、Sound OneのAudio Testにかけてみることにした。
 
BYD ATTO3 計装中(センサー取り付け)
 
JARIテストコースにてBYD ATTO3 走行音収録

●目的・動機


ウインカー音に期待すること、意味はなにか、それと音は結びついているのか?など考えながら、
まずは、Audio Test実施のため録音してあったいくつかのウインカー音を聴いてみた。
ウインカーを出すシチュエーションを考えると、停止時に出すケース(動き出す合図)と、
走りながら出すケース(車線変更や合流)がある。
当然、後者は、ロードノイズや、加速時であれば、エンジン音、モータ音と、ウインカー音が重なって聴こえる。
これからEVが増えてくる中で、EVらしい加速音をベースに、ウインカー音を重ねた音で、Audio Testを実施してみたいと考えた。
BYD ATTO3 右折のウインカー音(ブランド)
 
 

●Audio Test作成


■音源

  • 寄り道
従来のリレーのカチッカチッ音における音の知覚から生ずる印象は、
音と音の間隔や、セットになっている2音の基本周波数の差などで、変わりそうだ。
これらのパラメータを変えて、聴感印象への影響を観察するのは、
研究テーマとしては面白いし、既往の研究の調査も必要と思われる。
例えば、音と音の間隔がある時間より短いと、急かされる印象を持ち、少し長い時間になると、
次の動きへの準備としては間延びしてしまい、良くないという結果が想像できる。
試験音をパラメータを振って生成し、系統的な実験はできそうだが、
研究的な興味は、ここでは横において、録音が可能な車種の音を揃えて実験を行うこととした。
リレー音の印象に寄与すると考えられるパラメータ
リレー音の印象に寄与すると考えられるパラメータ
 
JARIテストコースにてBYD ATTO3 走行音収録
JARIテストコースにてBYD ATTO3 走行音収録
 
  • 音源の選択
録音したウインカー音は、EV4車種6音で、うち3音は、BYD ATTO3のブランド2、スタンダード1である。
6音のうち4音が、リレーの音で、カチッ・カチッのタイミングもバリエーションがあり、周波数特性も異なっている。
また、【目的・動機】で示したように、EV加速走行音を「地」として「図」に各種ウインカー音を重ね合わせることとした。
ウインカー音を鳴らすシチュエーションとしては、一般道から高速道路への合流の際をイメージして、音を評価してもらうこととした。
 
  • ここで少しだけ振り返り(反省)
【目的・動機】で述べた「ウインカー音に期待すること、意味はなにか、それと音は結びついているのか?」
これは、意外と深い。
反省になるが、今回のAudio Testは、音源をウインカー音と決めた後のプロセスを少々ショートカットしてしまった。
本来は、より良いウインカー音の制作を託されたサウンドデザイナーに憑依して、
そもそもウインカーは何ためにあって、出す音の意味の大もとを定義することから始めるべきだった。
ウインカーは歩行者や、周囲のクルマとのコミュニケーションであり、
運転しているクルマの左折・右折の意思を伝えるもの。その意味を他者により良く伝えたり、
運転者がより正しく確認する上で、それらを評価する適切なことばは何かを検討することが、本来辿るべきプロセスだろう。
サイン音は、それぞれ、それが必要になった理由がある。
クルマの中だけでなく、街の中にも、様々なサイン音や音声での情報伝達装置がつくられ、
やや過剰になっている昨今の状況がある。これらの音の評価は、製品性能、機能面だけでなく、
より快適な街や都市の音環境をデザインしていくためにも必要であり、
その際は、理由や目的という「そもそも」の議論から始めることを覚えておきたい。
 
  • 音源一覧
ドライバー耳位置でLA7700小野測器製騒音計で収録した音を、Audio Testの音源として使用した。
 
BYD Atto3 e-SUV std
BYD Atto3 e-SUV brand-R
MAZDA MX30 e-SUV
BYD Atto3 e-SUV brand-L
Nissan Sakura e-軽自動車
BMWi4 e-coupe
 
スマートフォン(Sound One)、騒音計 小野測器/LA7700、
バイノーラルマイクを接続したハンディレコーダー Zoom/H4nPro
で収録

■試行

  • 1回目
 
Audio Testで最も重要な要素の一つが、評価語の選定である。
Sound Oneの特徴は、失敗コストが低く、何度でもやり直しがきく点であるが、
今回、Sound One Challenge の企画で、
200人以上の多くのモニター参加を予定しており、
さすがに、失敗を前提に取組むことはできない。
そこで、まず、Sound One社の社員+αで、
評価語や音源の数などの選定のためにAudio Testの試行を行った。
10人足らずの結果だが、すぐに傾向が把握できる利点は、
Sound Oneの大きな特長である。
まず、音源を一通り聴いて、
深い理由はなく以下の2対の評価語で1回目の実験を行った。
 
結果は、聞き慣れたリレー音の方が、ATTO3のブランド音より安心感を感じる傾向になった。
上の画像は、散布図の一例。
また、2つの評価軸間の関係は、実験前には、高い相関を想定したが、
結果としては0.5以下の負の相関となった。(安心と親しみは、あまり強い関係にない)
内観としてのコメントにはウインカー音に、「親しみやすさ」は感じないということで、
「親しみ」⇔「よそよそ」の軸は却下とした。
 
  • 2回目
2回目は、少し方向を変えて、下記の評価語で実施した。
1回目の試行のように、2軸の両方を意味的な評価語にすると、
評価語間の相関と、
1/3オクターブバンドの音圧レベルと各評価語間の相関において、
物理的な解釈が難しくなることが多い。
 
一方、音の物理量に紐づくような一次感覚的な知覚
(例えば、大きい⇔小さい、高い⇔低い、濁った⇔澄んだなど)を
表現することばを用いると、物理的に説明しやすくなる。
 
 
今回は、2軸のうち一つを一次感覚的な知覚として、やわらかい⇔かたい を用いた。
 
また、意味的な評価語には、外部環境とのコミュニケーションのメタファとしてウインカー音を捉え、
積極的な方を、「外に向かった」として、その対義語を「控えめな」とした。
 
2つの評価語の相関係数は、0.78と高く、250Hzから1.25kHzの中周波数帯域で、
1/3オクターブバンドの音圧レベルと2つの評価語は高い負の相関を示した
(レベルが大きいほど、やわらかく/外に向かった)。
 
  • 3回目
3回目は、1回目と2回目の結果を受けて、評価語を検討した。
まず、1回目の結果から、従来のリレー音と、
ATTO3の高低2音の組合せの音(ブランド)は、
安心感がある/なしで差異が出そうで、
「安心」に関係することばの選択が1つ考えられる。
また、2回目のやわらかさ(かたさ)に関しては、
低音域の相関が高く、物理値との関係が説明できそう。
ただし、外に向かった(控えめ)との相関も高く、
ほぼ同じ周波数帯域で高い相関を示しており、
2つの組合せは避けた方がよさそうである。
結果として、「安心」と「やわらかさ」の2軸で、
3回目を実施することとした。
「安心」の片方のことばとして、
「不安」ではなく「ワクワク」を置いてみた。
安心の反対語ではないことばだが、いずれもポジティブな意味があり、
試みとして採用した。
 
 
結果は、右図に示すように、評価語間の相関は、0.59とややあるものの高くはなく、
関係する周波数帯域も、安心(ワクワク)で、1k~1.6kHz、やわらかい(かたい)で、1kHz以下と分かれた。
この結果は興味深く、多くのモニターでも同様な結果が得られるか試す意味でも、
この2つの軸を採用することとした。
 

■説明(教示文)

【実施の目的・動機】で示したように、 EVの加速音をベースに、
ウインカー音を重ねた音をイメージし、シチュエーションを想定した。
 
[STORY]
あなたは電気自動車(EV)を購入しました。
どうやらウインカー音は、6種類から選択できるようです。
"どの音にしようかな?" 想像してみます。
 
[Audio Testについて]
いくつかの「走行中のEV車内の音」が流れます。
一般道から高速道路へ合流しようとしているシーンをイメージしながら、
それぞれの印象を2つの評価軸で回答してください。
 
【説明(教示)文の新たな考え方】 これまでの聴感実験は、文脈の影響をなくすために、
回答者に音の知覚にフォーカスした評価を要求するケースや、
音を発生する対象をイメージさせるような短く固定した教示を与えることが多かった。
これは、音の評価が文脈に依存するためである。
逆に、独自の文脈を提示して、文脈もセットで、評価結果を考察することで、
音の評価の多様性を見出すことができないだろうか。
STORYを提示して、回答者は、そのSTORYの中に身を置いて、その文脈で音を聴く。
視覚刺激のない文章から想起される脳内のメタバースでの聴覚体験としてのAudio Test。 
従来の実験の常識の枠を外して、 Audio Testの新たな可能性を模索していきたい。

●考察


■評価結果一覧

5×5マスの表示では、最大のマスに目が行きがちだが、
周囲の分布にも傾向の特徴が表れる場合もあり、ヒートマップのような表現など、
結果の可視化方法には、検討の余地があると考えている。6つの音に対して、2軸の5段階評価を2次元で示した結果を示す。
②と④は、ピッチの高→低、低→高の2音の組合せだが、
高低の順序に関係なく、かなり近い結果になっており、
やや「ワクワク」、やや「やわらかい」のマスが最大だが、安心側とワクワク側との差は小さい。
リレー音の4つは、傾向は似ており、⑥以外は、やや「かたい」「どちらでもない」のマスが最大だが、
その周囲の分布に特徴がある。いずれも「安心」に偏っており、特にリレー音の繰り返し周期が長めの③はその傾向が強い。
⑥は、いずれも「どちらでもない」のマスが最大だが、周囲分布より「かたい」「安心」への偏りが見られる。
 

■各音源の平均1/3oct.band level (EV走行音重ね合わせ後、Z特性)

音源作成プロセスは、特に、各ウインカー音と、EV走行音の重ね合わせについては、
聴感でざっくりやってしまったが、ウインカー主成分帯域での、
走行音と重なるタイミングでのS/Nを6音源でほぼ同じになるように物理的に調整すべきだった。
 

1.全回答者433名の性別、年代の内訳

 
性別、年代の内訳は左表のとおりだが、全世代合計では、男性が女性の倍以上で、
特に40代、50代、60代の女性が少なく、男女比のバランスが悪い。
20代が全体の1/3を占めており、かつ女性の半数が20代で、大学学生の参加がこの世代の数を押し上げている。
Sound Oneは、現在の仕様では、この性別と年代でフィルタリングして属性の傾向を捉えることができる点に特長がある。
 

2.試行との比較

 
AudioTest評価結果と1/3オクターブバンドレベルの音圧レベルとの相関
 
試行3で実施した8名の結果と比べると、両評価語間の相関係数が、
0.59→0.87と433名では、かなり高い相関関係を示した。
また、ワクワク⇔安心と1/3オクターブバンドの音圧レベルとの相関係数は、
8名では、‐0.5前後だった315Hz~800Hzで、
433名では、 ‐0.85以上となり、様相が異なる。
やわらかい⇔安心の軸は、回答者数の違いで大きな差にはならなかった。
Sound One社内+αの8名は、Audio Testの経験も多く、
音の専門家や音との接点は厚い。
単に、数が少ない点もあるが、属性としては、
一般に幅広く多様な属性の回答者群と異なる可能性もある。
特に、評価語1のワクワクー安心といった、
音の印象から受け取る意味的なことばでの評価において、
結果に違いが生じたことも興味深い。
 
 
 
 

3.属性(性別、世代)による傾向(1)

 
先述したように、両評価語間の相関係数が、全体(433名)で0.87とかなり高い相関関係を示した。
男性(290名)と女性(131名)では、これがそれぞれ、0.95と0.23となり、かなり差が生じている。
原因は、青→緑の枠で示した「ワクワク」⇔「安心」の評価傾向の違いである。
また、女性(131名)の中で、30代以上の61名でフィルタリングすると、
両評価語間の相関係数の符号が負に変わり-0.67となった。
緑→オレンジ枠の中周波数帯域で、0.6以上の正の相関、
すなわち、この世代の女性この帯域の音圧レベルが高いほど「ワクワク」より「安心」に感じる人が多いという結果を得た。
 

3.属性(性別、世代)による傾向(2)

 
 
比較のため再掲するが、左から全回答者、女性全員、女性30代以上、女性20代以下の結果を示している。
女性全体で、両評価語間の相関係数が0.23だが、30代以上で-0.67、30歳未満で、
0.80と逆の傾向となった。緑からオレンジの枠に示すように、
30代以上で正の相関が、20代以下は-0.6より大きい負の相関となった。
すなわち、30歳未満の女性は、この帯域の音圧レベルが高いほど「安心」より「ワクワク」に感じる人が多く、
この傾向は、男性の傾向と同じである。また、もう一方の評価語である「やわらかい」⇔「かたい」は、
性別、年代に限らず、200~800Hzの中低周波数領域の音圧レベルが高いほど、「やわらかい」という結果となった。
 

4.女性30歳以上未満の評価傾向の違い

 
6つの音源ごとに、30歳未満と30歳以上の女性の評点の平均値を
2軸で構成した2次元平面にプロットした。
青い丸が30歳未満、オレンジ四角が30歳以上で、
先述した音源1-6をS1-S6として示している。
まず、S2、S4のBYDブランド音は、2音とも「やわらかい」側にあって、
「ワクワク」⇔「安心」の軸では、0を境に、
30歳未満は負側(ワクワク)に、
30歳以上は、正側(安心)に布置されている。
これが、相関係数の符号が逆転した一つの理由と考えられる。
 
 
従来のリレー音群は、いずれも「かたい」側に評点の平均値があるが、
4音源いずれも、30歳以下の評点は、30歳以上に対して、安心側にあり、ブランド音と逆の傾向を示している。

■コメント

モニターの方々からの多数のご意見、コメントや、興味深いご指摘に関して、以下にグルーピングして整理した。
 
 

●おわりに


Sound Oneは、カジュアルな音の評価ツールで、
Audio Testに至るプロセスも「簡便さ」をメリットとして将来のお客様に紹介している。
今回これまでにない400名以上の回答者(モニター)に参加いただいた実験は、
結果として得られたものは、貴重で示唆に富むものと考えたいが、
Audio Testの作成、とくに音源の選択や作成(今回の場合は、EV走行音との重ね合わせ)に関して、
もっと丁寧なプロセスを踏むべきだったと反省しきり。
本文にも書いたが、やはり、今回のケースでは、ウインカー音の制作を依頼されたサウンドデザイナーに憑依して、
ウインカー音の意味や、価値の定義から始めるべきだった。
その意味で、サウンドデザインツールとして提案するのであれば、
簡便さだけでなく、上流側の実験準備における丁寧なプロセスも同時にユーザに知っていただくことが必要。
ただ、これまで、一握りの研究者に限られてきた聴感実験の裾野を広げ、
rightness(正しさ)よりrichness(豊かさ、多様さ)を提供できるツールであることも再認識できた。
失敗コストの低いツールでないとできない探索的な取り組みを今後もやっていきたい!
 

 

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